一期一会
月におおよそ一度、音楽関係の仕事で新潟に行く。もうかれこれ15年は通っていて、まだ若くてやんちゃな時代には飲み友達もいっぱいいて、行きつけのお店が何軒もあり、一日の仕事なのにその前後の夜においしい新潟の肴と酒を楽しんだものだ。
飲み友のひとりに妙齢の美女がいた。おとなしく清楚な人だったが、まさに天使のように繊細で悪魔のように大胆に、とてもきれいにお酒を飲む人だった。彼女と飲むのは本町通りの「いちや」というひなびた居酒屋に決めていた。そして飲むのは常温の〆張鶴と決まっていた。お酌をするのが絶妙な人で、話をしながら大きめのぐい飲みが空くといつの間にかついでくれている。まあまあ、とこちらから酌をすると、あっ、もうこれ以上は飲めませんからといいながら、飲み干して受けてくれる。
ふたりで一晩に二升あけたことがあるが、不思議に翌朝は二日酔いにならなかった。
彼女はやがて人妻になってしまい、「いちや」で飲むこともなくなってしまい、私も新潟に行っても、今は〆張鶴を飲む気持ちにもなれず、新幹線にそそくさと乗り込み家路を急ぐようになった。
人生は一期一会。
振りかえれば後悔ばかりである。
あの時、あの瞬間、今思うと、大したこともないものをなぜ引きずって捨てられなかったのか?
なぜ、その背中にその一言が言えなかったのか?
そして、なぜ、その背中を追いかけなかったのか?
投げかけられた言葉の奥に秘められていたメッセージになぜ気づかなかったのだろうか?
人生は一期一会、か・・・・。
そんな想いを引きずっているうちに、私もすっかり歳をとってしまった。
もう二度と戻れはしないあの夜に、せめておもいをはせていたいと思ううち、新幹線は新潟駅を音もなく滑りだしていく。